巖谷國士★特別講演「花と木のノスタルジア」@ロビニエ

4回目をむかえた吉祥寺ロビニエでの★先生の連続講演。今回は「花と木のノスタルジア」です。

 

ギリシア語の語源からひもとかれる「ノスタルジア」、もとはスイス兵士の病気につけられた名前だったそうです。戦争などで外地に行かざるをえなくなった彼らの、もう帰れない……という、自分の置かれた場所についての苦しみ。日本ではよく「郷愁」と訳され、ふるさとを思う心と混同されがちですね。

 

ただ、これから★先生の話される「ノスタルジア」は、そうした個別の話ではなくて、失われてしまったものへの思いについてです。

 

 

新著『幻想植物園 花と木の話』には、★先生がご自身の思い出を記しながらも、「私」という言葉をほとんど使いません。それによって文章に普遍性が生まれ、たくさんの読者の琴線がゆさぶられたり、涙が出たり、失われたものへの思いにかられるのかもしれませんね。

 

人間が文明を発達させるうちに、決定的に失くしてしまった何か……それは自然。★先生は、3本の傑作映画とそれらの共通点を挙げ、主人公たちが花や木からよびおこされるノスタルジアにかられ、森や木と戯れ、自然と交歓しているシーンを具体的にしめしてくれました。


さらに、花と木にそなわっているノスタルジアについて。植物は、個体がはっきりしている動物とはことなり、空間的にも時間的にも連続性があるのだと。それは花そのものに、すでに歴史や原産地の思い出があって、人間の文化までも花に投影されていることからも理解できるだろうと!


今回は、吉祥寺のロビニエ◇花のギャラリーからの質問「母の日にどうしてカーネーションを売るなったのでしょう〜」にこたえるかたちで、お話はすすんでゆきました。……この花にまつわる歴史や事件、小説、ギリシア神話、キリスト教世界でのこと、各国の母の日、赤や白だけでない花のありさま(ロビニエ店主ヤナがカーネーション産地まで行って見つけた奇形まで!)が次々にあかされて、お話はなんとコロンビアまで旅します〜。

 

日本のカーネーションの主な輸入元はコロンビアだそう!

★先生が語るコロンビアの、混沌とした世界の魅力的なことといったら……土地、気候、植物相、動物相、インディオの歴史、サッカーからガルシア・マルケス『百年の孤独』まで、まさに驚異の旅です。

 

いかに植物がわれわれの文化を記憶しているのかを、体験してしまう観客たち。

お話はさらに時代を紀元前までさかのぼり、サントリーニ島の「サフラン」などへもめぐります。

サフランはそれじたいが旅するもので、交易もあったほど……(もっと知りたい方、この新著のサフランの章をどうぞ!)

★先生は、震災以後、母の日のカーネーションの贈物が飛躍的に伸びたことも挙げ、あらためて人間が「母=(なる)自然」を必要としていることを指摘しました。文明の進化によって、人間が決定的に失くしてしまったものへの思い……ノスタルジア……この思いがなくなったら、人はただのロボットになり、未来はなくなってしまうと★先生。

 

震災直後の著書、『森と芸術』の表紙にもなった絵、アンヌ・ド・ブルターニュにささげられた若木も指さしながら、わたしたち聴衆たちを導きます。こうしてすべてがさまざまなところで連絡しあい、気がづけばノスタルジアが発生している……新著そのものような講演に、酔いしれた花のロビニエでした!

(okj)