巖谷國士★講演「発見と驚異-太古からロマン派の時代まで」@埼玉県立近代美術館

「旅の美術史」なんていう領域はいまだかつてなく、旅と芸術とを結ぶ本も専門家もいないなか、★先生がこの画期的な試みの監修をおこなった理由……それは、「旅」が現代という時代において、避けがたいテーマだからだと明かされました。

 

戦争と災害の世紀、テクノロジーの「進歩」による大量殺戮、災害被害の拡大、そこから生じる難民・移民・亡命者の旅。一方で、大衆化の時代に、産業化・組織化・商品化される旅。

 

また、わたしたちにもつながる★先生ご自身の体験として、★先生の生涯最初の旅、昭和20年にB29の爆撃を逃れて山形へわたった疎開の旅を語られます。その後、ともに疎開した女性たちの再話にもよって、★先生の「体験」となった、まるでちがう世界、別の場所で出会った驚異。

 

どこか別のところへ行く、外へと向かう状態、心のありかた(エグゾティスムのエグゾ=外)こそは、人間の本質・習性であると解説された★先生は、同一の祖先をもつホモ・サピエンスが、アフリカを出て移動の旅をはじめ、長い年月をかけて各地の風土に適応し、多様性が生まれていったその壮大な歴史の過程を展開します。

 

46億年前に海で生まれた生命は、ついに陸へ上がって移動をはじめ、そして人間特有の「旅」という行為に変化してゆく。生物学的にも多様性がなければ、環境の変化やヴィールスによって、たちまち絶滅してしまう危険があることも指摘されます。


こうした多様性の発見が、旅の本質であり、わたしたちのなかにはいつでも「旅への誘い」があると★先生。


旅へ誘うボードレール、旅を喚起するアンリ・ルソー、旅人たち……オデュッセウス、マルコ・ポーロ、コロンブス、ゲーテ、ラフカディオ・ハーン、ゴーギャン、アンゲロプロスなどについても。


今回の著書・展覧会に掲載・出品された図像を映しながら、

未知の世界がひろがると考えられたインド(東方)、古代の七不思議、驚異の博物誌、グランドツアー、ロマン派、ナポレオンのエジプト遠征、オリエンタリズムとドラクロワ、などについてくわしく解説してくださいます。点と点が、偶然・連想・類推・体験によって線となり、時空を線として体験する旅……

 

★先生が今回の著書を書く過程そのものも旅であり、わたしたちは読んで参加し、展覧会のさらに外へ行く! 紹介された作品が、次々に私たち聴衆の旅の記憶となるようで、本当にスリリングで画期的な講演でした。

 

その後、日本列島各地から旅して集った大人数での夕食会のありさまも、こうした旅の高揚につつまれて圧巻でした!

(okj)