巖谷國士★講演「旅への誘い 観光・文化・自然」@札幌TKP

「旅」という言葉を味わい、古くからのさまざまな旅にかんする知識を深め、「本来の旅とは何か?」を探るーー「『旅』をテーマに多岐にわたる話を聞き、地域観光政策に役立てよう」と企画された今回のセミナー。

企画担当のI氏は、なんと★旅本ファン! 

★先生は「北海道の自然・歴史・文化~札幌★7選」を紹介しながら、北海道の魅力がその風土だけによるものではないことを観客に気づかせる。

 

ご著書『旅と芸術』をひもとき、驚異・発見・夢想の旅へと誘い、現代の旅を案じ、これからの旅に一石を投じる。その歴史と自然、国境ばかりか、さまざまな壁や思考の壁もとりはらう、壮大無限な★先生の「観光・地域政策セミナー」は、私たちの旅細胞を増殖させ、新たに森に生まれて旅する感覚を呼び覚ましてから、原初の森における無限の出会いへの期待をたかめるものだった。

 

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日本列島をひとつの国と考えるべきではない!

北海道には本州とは異なる歴史がくりひろげられてきたことを再認識。

翡翠・タカラ貝……遺跡出土品に、縄文時代からの交易を見る~糸魚川~沖縄~台湾~アムール川流域~国の別がなかった昔。遠地とのさかんな往来からアイヌ(沿海州・千島・樺太などの先住民)文化へ……。「自然」と共生して暮らす時代が長くつづいた。太古にはパスポートなどない。たがいに移動し融合してきた北海道!

 

そこでちょいと寄り道。「札幌★7選」の最初に挙げられるモエレ沼公園へ。

二重国籍に苦悩した独特の旅人、世界にも稀な彫刻家・イサム ノグチが晩年に設計したところ。「人類とは何か?」所属がわからないことが、芸術をひろげていった……と。

 

雨空からパッとひらいた広い空! その日の朝、私も緑の芝の小さなオブジェになっていた。

そこは宇宙の縮図! 地球の縮図!独自の風土と歴史をもつ北海道だからこそ、あんな空間づくりが可能になった。序章にして、北海道がその手をのばしてひろがりながら、まぁるい地球になってゆくのを見る。

 

『旅と芸術』もあらたな観点からも考察してゆく。

 

◆「旅」という言葉から、本来の旅を探る。

英語travelは、フランス語travail (労働・労苦)から派生した言葉だとか。旅には苦労を伴う感覚が……。

 

◆「旗」と「人人」→漢字「旅」。

旗を持って人々を連れ歩く~中国語では旅団。

 

◆日本語の「たび」の語源は?

たひ・他の日・外の日・他の世・他の火(=食べ物がある所)~そして語源が同じ「食ぶ」+「給ふ」→「別の処へ行って食べ物を給はる」柳田國男説。本来、旅は野宿して食べ物をたまわること~枕詞は「草枕」。旅の暮らしには苦労を伴う……旅芸人・物乞い。

 

いろいろな意味をもつ「たび」は、いいことば!と★先生。なるほど実に奥深い!

ほかの火には「暖」の意も?

ずぶ濡れtravail travelののち、有島邸で燃える火が嬉しかった~ついさっきのこと……芸術の森。

 

前述「たび」の奥深さが詰まっている『奥の細道』序文。

日々旅(journey)・旅に死せるあり(travail・草枕)・旅を栖とす→移動するのが人であり、旅!

定着しても定住しない。「一時ほかの場所へ……」、観光旅行と混同する広辞苑の「旅」定義がまたもや覆る。

 

◆人類の移動(多様性と驚異)

アフリカのイヴの長い長い旅の過程~最終氷期、地続きだった樺太経由で(青函は早くに分断)北海道~列島全土~ベーリング海峡を渡ってカナダへも……。米インディアンと縄文人とアイヌ人は文化的にも共通する。

 

カナダ滞在後、彫刻への概念が変わったという砂澤ビッキ。彼やその作品がすばらしいのは言うまでもない(『森と芸術』参照)。彫刻作品『四つの風』はビッキの遺志に従い、自然が「風雪という名の鑿」を加えていくままにした……作品が時間を旅し、そのまま腐食してゆくままにした。

 

北海道には「国家」という枠を超えてしまうような解放感がある!と★先生。

 

種族や文化の違いは多様性に過ぎず、差異はあっても優劣の差はない。差をつくるのは文明。差別は植民地「国家」によって生まれた。イヴがひろまってゆく長い旅の結果に生じた多様性。その多様性の驚異や不思議に出会う体験が旅であり、遺伝子の多様性を保つためのDNAレヴェルの旅が人間の本性にはある。壁や海の向こうはーー夢想旅。

 

◆人間は移動を続けている生物

◇交易・探索(狩猟・採取)・遠征~◇放浪~本性◇巡礼=観光の起源~延長に物見遊山。自然信仰の日本~崇めるしかない「自然」~人間はその一部◇遊行=行く先々で食べ物をたまわる~中世の偉大なる宗教家! 生涯旅・一遍上人◇漂泊の思い~漂いさまよう本性(芭蕉)

 

本性としてある「旅」は、日本でもさまざまに表現されてきた。

 

◆古来より文学にも旅!

◇歌枕~歌に詠まれたところを訪ね歩く◇神話・伝説(古事記~死んで鳥になって空の旅~死後の世界にも…)◇和歌(万葉集)◇御伽草子(浦島太郎ほか)◇俳諧(芭蕉他)◇旅日記(『更級日記』千葉から京都へ。貨幣の代わりに名産品=土産~ほか)◇探検記(『日本奥地紀行』英国女性がアイヌの調査まで~ほか)、漫遊記(東海道中膝栗毛)

 

◆古来より美術にも旅!

◇絵巻物~旅・時間を描ける(cf.一遍上人絵伝)◇挿絵◇浮世絵◇北斎◇ビゴー

 

■北海道の自然・歴史・文化~札幌★7選

知るほどにおもしろくなる! たくさんのものが見えてくる! 北海道の旅がひろがる! ふくらむ! みなさんも訪ねる機会があったなら……。

 

 1 モエレ沼公園(ガラスのピラミッド・プレイマウンテンほか) 芸術にして子供の遊び場となる作品が多いイサム・ノグチ。最も愛したのはインドとメキシコ。

 2 野幌森林公園(北海道博物館、開拓の村、北海道埋蔵文化センターほか)。

都市の真ん中に圧倒的大きさと驚異! 植物もまた進化の旅! 北海道の歴史がわかる! 日本国の歴史とは全く違うことがわかる! ガラスケースには糸魚川の翡翠がいっぱい!

 3 北大植物園(アイヌ資料館ほか)・北大(総合博物館)

 4 芸術の森(美術館、野外展示:砂澤ビッキ、ダニ・カラヴァンほか、旧有島武郎邸)

 5 円山公園とその周辺(宮の森美術館、道立美術館、旅人・三岸好太郎美術館ほか)

 6 中島公園(豊平館、八窓園、天文台、野外彫刻、安田侃ほか)

 7 大通公園(旅によるブラックスライドマントラ~イサム・ノグチ、サンクガーデン、市資料館、街路樹ほか~)

 

■美術・文学・漫画~北海道出身あるいはつながりの深い作者たち。美術では(多民族的)彫刻家~森のくに、文学では旅の人、漫画においては女性・SFに結びつく人が多い…かな~。

 

≪美術≫

国境のないイサム・ノグチ、砂澤ビッキ、安田侃、本郷新、旅の人・三岸好太郎、圧倒的自然と片岡球子ほか

≪文学≫

SF的小説説に北海道を感じる旭川生まれ満州育ち・阿部公房、岩田宏(多国語翻訳家・詩人)、大震災も旅のきっかけ~瀧口修造、石川啄木、野口雨情、小林多喜二、有島武郎 宮沢賢治 武田泰淳 三浦綾子ほか……富国強兵暴走国家の影も

≪漫画≫

岡田史子(独特なポエジー)山岸涼子(アラベスク…ロシア)佐々木倫子(動物のお医者さん)野田サトル(旅物語『ゴールデンカムイ』…アイヌ) 現代の遊行者・吾妻ひでお

 

そして★著書が、驚異・発見・夢想の旅へと誘った

★『〈遊ぶ〉シュルレアリスム』

旅とつながる、字も似ている「遊ぶ」。機械に見るアソビ部分は計算されていない部分…ふむふむ、おもしろい!

 

★『幻想植物園』

植物をめぐる旅~植物に見る「自然」の生命力・変化・再生。北海道いたるところ、そのまま植物園~いつでも幻想の旅!花の浮島浮遊!

 

★『旅と芸術』

画像映写。終了予定時刻が迫るころ……息をのんでいたのか、静まりかえっていた会場に、音はせずとも、身をのりだすようなざわめく気配! 前方スクリーンに映し出されたのは『ヘレフォード世界図』! 時代の世相や流行を映す作品に「驚異・発見・夢想」である旅の変遷を……その時代を背景に生まれた文学や美術や博物誌を、急ぎ足ながら映像で見ていった。最後となった明治20年代の災害を描いたビゴーのスケッチに、旅をして見るものの違いを指摘。「国家」ではなく「くに」を描きのこしている~外国人が残した日本の庶民たち(被災者たち)の姿。

「災害を防ぐ唯一の方法は記憶と記録である」日本列島すべての人が常に心に刻むべき、寺田寅彦のことばを引かれた。テクノロジーが進歩するほど被害は増大。テクノロジーで対処しようとするのは旅をしない人の発想。現代日本の一種の病気!と警告。(三陸被災地の切土による盛土は早くも崩れている)生き延びてゆく方法は「自然」との共生。そのためには「壁」をつくってはならない。自然に対してたたかう姿勢を見せるのは、定住者による壁の内側を守ろうとする発想。

 

本来は、歩いて移動していた。道を歩いて何か不思議に出会うことが旅であり、人間の本性でもある。

見るべき点(ポイント)ばかりを見て帰るのではない!観光が情報化されると、点ばかりの旅となり、本来の旅が失われかねない現代。予定通りではなく、点を線で結びながら、迷いながら歩くのが旅。

原生林のなかを、次は誰に会うか?

道に向かって歩く旅をとりもどさないと!

はるか昔からそれをしてきた人類は、それを捨てることになる~私たちの危機感を募らせた。

 

北海道はその開放感ゆえか、旅細胞を増殖させちゃう不思議なところ! 札幌★7選の一か所でも訪ねてみたなら、昔からの旅の感覚一気に回復!

 

Mont★Analogueのおかげで、あいにくの天気も、幸いの天気に思えたり!★魔術に感謝です!

(株)D社のIさん、受講要望をお聞き入れいただき、ありがとうございました!

 

ご講演の合間にふとされた、新幹線は必要なかった昔の北海道周遊券旅行のお話~各停長距離列車★内部が木の汽車だの……途中駅のホームからサンゴ草に染まる湖を見たり……似たり寄ったりの旅を重ね、旅の変わりようを思う。高速化→北海道は廃止された路線も多い。

(violet)